第1話 「もし採算度外視で、究極に自分の顔に合った面を作るならどうすればできるのか?」
お金はいくらかかっても良い、売り物じゃないから。
納期も無期限。いくら時間がかかてもいい。
とにかくこれまで店長がかぶった事がないくらい究極にピッタリあった面を作ってみたい。
シンプルにそこだけを追求する。
結論を言う。
出来るには出来た。
これまでの常識では考えられない面が出来た。
ただ、この1台を作るのに防具に製作費以外に126万円と4年6ヶ月の期間がかかってしまったのだ・・・。
この方法なら私の面でも、あなたの面でも、1台だけでなく、何台でも、顔に吸い付くような面が何度でも必ず製作できる。今使っているサイズが合わない面でさえ、完璧にサイズをあわせることが出来るようになるのは間違いない。購入時のサイズの間違いも無くなるだろう。
少し長い話になるので少しづつ順を追って説明していきたいと思う。。。
第2話へ続く。
第2話 常識を疑え。
そもそも「ぴったりすぎる面」とはどういう状態だ?
現状剣道具の面は「何センチ」といった具合に1cm単位で製作される。
だが、靴などをイメージしてもらうと分かり易いが、靴も面と同じように「何センチ」でサイズ展開があるものの、足の形は人によって様々。幅広い人もいれば、甲が高い人もいるだろう。メーカによってサイズの感覚も違うし、購入前に左右とも足を入れてみることは必ず必要だ。
だが剣道具の面の話になると急にサイズ合わせがおろそかになってしまう。
単純に何センチといった具合に寸法だけで合わせてるしか選択肢がない。
人間の頭部は足よりも遥かに複雑にも関わらず・・・だ。
ハチ周りが張り出していたり、アゴが出ていたり、頬が細かったり、面長だったり、丸顔だったり、男性だったり、女性だったり、しかも目と物見の高さまで正確に合わせるには
・頭のサイズ
・頭の形
・物見
・内輪の大きさ
・内輪の取り付け具合
・こめかみの張り具合
・アゴの細さ、出っ張り
・後頭部のはみ出し
・頬の痩せ具合
・下唇
・面の傾き
・額の角度
・将来的な内輪の馴染み、伸び
をすべて考慮にいれて逆算で面を組まなければ仕上がらないのだ。
はっきりいって、
「お店の人に測ってさえもらえば必ず合う」
とかいったレベルの話ではない。
たとえ計測どおりに面が仕上がっていたとしても、それでも人の頭部が複雑だから合わないケースだって大いにありうる。これまでは「その内馴染みますよ」と使うしか選択肢が無かったが本当にそうなのだろうか?
はっきり言おう。これまでのうようにこの「何センチ」という話をしている限り、いくら腕の良い職人でも一度に全部毎回合わせることは不可能だ。
常識を疑え。
私は思い切ってこの何センチというサイズの概念を一度頭から外すことにした。
そして、6年前の夏、私はとんでもないところからすべてを一瞬で解決する運命のヒントを得ることになる。すでに防具屋の発想ではない、驚きの方法だ。それこそが・・・・
第3話へ続く。
第3話 カツラ・カツラ・カツラ
6年前の夏、、、私はお店で何気なく新聞を見ていたら驚愕の記事を目にした。それはカツラ大手のアデランスが3Dスキャナを使って人の頭部をスキャンし、これまでの常識では考えられないほどフィットするカツラを作り出した記事だった。
よくよく調べてみると通常の作り方だとカツラは頭の上にビニールをかぶせ、マジックで線を描いて頭部の型を取るという極めてアナログな製作方法だ。採寸する人が変わればもちろん微妙にずれる。
それが3Dスキャナを使えば誰が測っても「0.1ミリ」の精度で測定できるようになったいうではないか!!(剣道具の「1センチ」単位の剣道具の測定と比べれば雲泥の差だ。20倍の精度)
結果、カツラのフィット感がこれまでの常識とは「劇的に」改善されたという話だ。
他にも医療分野、美容分野で義手や義肢を作る際の型取りや、オーダーメード車椅子を作る際のクッション、歯など極めて高い精度が要求され、サイズの失敗が許されない最先端の分野で当時3Dスキャナが結果を出し始めていた頃だった。
カツラをテレビCMをたくさんしている大手企業だからできるのか?剣道具という昔ながらの職人仕事には3Dスキャナはなじまないのか?
いやそんなことはない!剣道の面を作るのにも必ず使えるはずだ!!
発想は良かった。
だた、後から分かったことなのだがこんな発想だけなら誰だって思いつくものだ。
実はそこから実際に形になるまでがイバラの道。そこから私は多額のお金と時間を投資し、挫折し、どんどん深みにハマっていくのだ。。。。
第4話につづく。
第4話 挫折。46万円を文字通りドブに捨てる
「3Dスキャナを使ってピッタリすぎる面を作る。」
繰り返すが、この発想自体は悪くない。
ただ、当時そんな発想をしている人はどこにもおらず(今でもいないと思うが)、私が住んでいる四国の香川県では3Dスキャナなどどこにも置いていない。
2012年12月17日。私は飛行機に乗って東京へ向かっていた。渋谷と横浜にある3Dスキャナとプリンタのショールームを訪れるためだ。そこでは主に企業向けに1台2千万円もする3Dプリンタをデモンストレーションして実際に3Dプリンタで印刷したスパナや人形など見せてくれた。3Dスキャナについてもハンディ型とはいえ、1台250万円。ソフトや保証もいれると350万円のものが1番安い。とても地方の小さな武道具屋で導入できるような話じゃなかった。
香川にもどった私は業務用の3Dスキャナはあきらめて、家庭用の3Dスキャナを購入することに決めた。
・3Dスキャナ本体 Microsoft Kinect センサー 商用 Amazon.com Int'l Sales ¥ 11,181
(このスキャナは精度が悪く結論からいうと使い物にならなかった)
・3Dスキャナ用高性能ノートパソコンその1 200,000円
・3Dスキャナ用高性能ノートパソコンその2 200,000円
・3Dプリンタ商品名 2012/12/17 :3D TOUCH ダブルヘッド + ダブルヘッド用スターターパック ご注文番号:PC14224703851169518 金額 :462365 円
・業務用3Dスキャンソフト Artec Studio 9 (Date of order: 11/21/2012 12:25:47 PM UTC
Shipping Method: Online Delivery
Subtotal: € 500.00
Shipping and handling: € 0.00
Total: € 500.00)
経験は全くない、知識もないが、道具さえ揃えば大丈夫と思っていた私はやはり甘かった。
はっきり言って全く使いこなせない。
問題の解決をしようにもソフトウェアのインストールからして出来ないレベルだった。サポートが海外なのですべて英語。しかも相手はロシア人のようだ。
何から何までうまくいかない。
とても素人が手を出していい分野ではない。
3Dプリンタは実物大で頭ひとつ印刷するのに72時間もかかる。大きいものは苦手なのだ。閉店後に印刷を開始して帰宅するのだが、朝お店へいくと床中に失敗した印刷物が散らばっている。そんな状態が毎日続く。2回に1回は失敗といった具合だ。
数ヶ月後、私は3Dプリンタを手放す決断をした。
決済ID : 131003168870
振込金額 : 190,000 円
入金(予定)日 : 2013年10月7日
■オークション内容
商品ID : e138257156
落札者 : prog7580
商品タイトル : 3Dプリンタ 3Dtouch 人気! 即決 即売りたし 送料無料
すべて全部まとめてたったの19万円だ。それでも良いほうか。。。
夢は破れた。金銭的にというよりも心が折れた。何時間かけても何日かけても満足のいくレベルのものは仕上がらなかった。
「武道具業界を変える!」と調子にのっていた自分が恥ずかしかった。
「もう二度と3Dスキャナには手を出さない!」
私は心に固く誓った。。。
ただ、人間とは愚かなもの。
5年後の2017年、私はもう一度3Dスキャナに向かい合うことになるとは当時は思っても見なかった。そして前回以上の泥沼にハマってしまうのだ。。。ただひとつだけ違うのはついに完成するのだ。あの「ぴったり過ぎる面」が!!遂に!!!
第5話へつづく。
第5話 悪夢再び。諦めきれなかった夢。
どうしても面がうまく合わない人がいた。
飛行機に載って東京まで会いに行った。
お客さんはお仕事中に会議室と時間をとってくれた。
百聞は一見にしかず。
サイズの話もあるが、確かにいただいたお写真や想像よりも、頬が痩せていてアゴが出ているし、脳天も出ている。特殊な頭の形だが、たしかにこれでは内輪がうまくフィットしない訳だ。
東京まで来てよかった。自分でもアフターフォローとしては良い仕事をしたと満足していた。
香川にもどってから私は自信を持って、職人に伝えた。
「この方、面を組み直してください。頬が痩せていて、アゴが出ていて、脳天が出ています。」
これで万全だと思った。
数週間後、組み直した面をお客様に送った。
「宇賀さん、こんどは大きすぎます、横幅もやはり全然あいません!」
「???」
私は最初は理由が分からなかった。私の伝え方が悪かったのか、職人の仕事が悪かったのか。ただ、このままでは私としても仕事をした内には入らない。
「Aさん、大丈夫です。もう一度だけ時間をとってください。
こんどは面組みの職人さんと二人で行きます。必ず合うまで対応します。」
今回は職人にも無理を言って飛行機代を支払って東京まで来てもらった。チケット代だけで既に15万くらいかかってる。失敗は許されない。
実際に職人さんに道具を持ってきてもらいもう一度Aさんの職場を訪ねた。職人は道具を持ってきていてその場で面を手直ししたり、お客さんの頭を細かく計測したり、かぶってもらったりしていた。その後、持ち帰ってきっちり直してもらった。
面の方は無事合うようになったのだが、ここからが本題だった。
私はその日、職人さんと東京駅隣のホテルのレストランで職人さんと今回の件についてじっくり話をすることが出来た。
職人さん:「宇賀さん、面職人というのは頭のサイズと顔の形を伺ったら、使い手の頭の形を想像しながら作るんですよ。そこが腕の見せどころです。」と教えてくれた。
一瞬納得しそうになったが、ということは一度目の調整でうまく合わなかったのはそのせいでは??想像でやってる限りうまく合わないこともあるはず。
次の瞬間。ヒントが見えた。
店長:「でも想像だったら合わないときもあるんじゃないですか?」
職人さん:「いただいた寸法が正しければ、だいたい合ってると思いますよ。」
店長:「じゃもし、お客さんが面を組む際に、仕事場へお邪魔して目の前にいる状態でじっとそばで立っててくれて文句も言わず、何時間でも、何度でも頭を細かく計測させてくれるなら??」
職人さん:「そりゃそれなら絶対にピッタリ合いますよ(笑)。自信があります。でも遠方だし、それが不可能だから頭のサイズを測ってもらっているんじゃないですか。普通は面は海外で製作しているのでそんなこと言い出す人はまずいませんよ」
後頭部を竹刀、いや赤樫の木刀で殴られたような衝撃だった。
こりゃ面が合わないという話がこの業界で無くならない訳だ・・・。
しかも最近は剣道具の購入は通販が主流。いくらオーダーメイドでも仕上がってみるまで分からないなんて、バクチをしているようなもんだ。
完璧にピッタリすぎる面を作るには面を組む際に職人さんの横にいないといけない。これ以上はない。だが現実的に職人が面を組むタイミングでそばにいることなど不可能だ。
やはりあの方法しかないのか・・・。5年前に一度諦めたあの方法を・・・。
3Dスキャナと3Dプリンタを使って頭の実物大の型を元に面を組むこと。
そうすれば、職人さんが面を組む時に隣にいるのと同じことだ。
出来る!今回こそ出来るぞ!!
そして5年後しにプロジェクトが再開、そして遂に完成するのである。
第6話につづく。
第6話 俺本当に、防具屋???
過去の失敗が頭をよぎる。
思い出す苦痛。
やはりまったくやり方が分からない・・・。
もう失敗はしたくないので
今度は3Dプリンタを買う前に一度使ってみよう。
以前から5年ほど経っているが、時代は変わっているのだろうか?
今回は大阪へ車を飛ばしていた。
3Dプリンタを体験できるファブスペースへ。
私「教えてください!頭の実物大コピーを作りたいんです!」
お店の人「いや、実物大なんて相当厳しいと思うよ。何に使うの?」
私「サイズがぴったりあったオーダーメイドの面を作りたいんです!」
お店の人「面って、演劇なんかで使うお面??」
私「失礼しました。剣道の頭にかぶる面の事です。」
お店の人「いずれにしても出力だけで時間も3日くらいかかるし、コストだって数万円、下手したら数十万円だよ。それなら3Dプリンタじゃなくて工業用のNC工作機械で削るもんだよ」
その日はそのファブスペースに設置してあった2台のうち1台が作動していた。
それを脇目でみながら、まさか将来、自分の武道具店に3Dプリンタが8台も並べられる日がくるとはその時は知るよしも無かった・・・。
第7話へと続く。

頭部の実物大を作りたいならと紹介されたNC工作機械のイメージ。
こんなん無理やろ!うち剣道の防具屋やで!

東京大手町のおしゃれなレストランで職人さんとカフェ打ち合わせ。コーヒー1杯1,300円なんて田舎じゃ考えられんわ。。。

あのカツラのアデランスさんが3Dスキャナを使ってカツラを作ってるだって!!(H26のプレスリリースより)私が6年前に見たのは新聞記事だったような記憶が・・・。
第7話 40歳過ぎて学校へ行く羽目に・・・
技術的な話になるとつまんないんだけど、
どうやら3Dデータを扱うにはCADソフト(コンピュータ支援設計)が必要らしかった。
CADソフトだけ購入しても結局使い方が分からず、
四国の香川県から大阪のCAD学校へ学びに行くことに・・・。
周りは専門の仕事をしている人ばかり。
防具屋なんて当然1人もいない。
完全に場違いだ。
CADソフトのソフトウェアの講習は真面目にやった。
ネコのクッキー型作ったり、コップを作ったり、スマホケースを作ったり・・・。
(やりたいことはあるのだが我慢、我慢。すべての道はつながっていると信じて・・)
そういえば、アメリカのスタートアップ企業から購入した最新式の3Dスキャナについてはもう1年くらい待っているが未だに届いていない・・・。メールの返信もないし、新手の詐欺にあったか?(これはH29.6時点で現在進行中の話だ)。
とりあえず、今は3Dスキャナを持っていないので東京の企業に自分の頭を3Dスキャナで計測してもらいに。

CADの授業で製作したネコのクッキー型。これが夢の剣道具作りに活かされると信じて・・・(明らかに関係ない?)。
第8話 スキャン一回に2万円もするんかい!
平成28年6月3日(月) 17時。
私は西新宿に来ていた。
目的は、プロに一度自分の頭部を3D計測してもらうため。
250万円の美容分野や医療分野で使われるArtecというスキャナで
スキャンしてくれるサービスがあると分かりすぐに東京行きの飛行機のチケットをとっていた。(オバマ前大統領もスキャンしたというプロ仕様の機器だ)
いろいろ調べた結果、最安値の見積もりが
スキャン1回・・・20,000円~
頭部の印刷・・・・400,000円~
だった(西新宿のオフィス24さん)。
印刷の見積もりは決して間違いではない。
4万ではなく、40万。これでも安い方。
中には90万とか、120万とか考えられない見積もりもあった。
スキャン費用も5万円くらいが相場のようだ。
だが、スキャン自体はものの3分。あっという間。
「これで2万円か!田舎モンには考えられん商売やな。東京はやっぱり怖いところや。」
さすがに40万かけて印刷はできなかったが、
後日、自分の頭のスキャンデータがメールで送られてきた。
これであとは印刷すればいいだけ。
そう思っていた私はとんでもない間違いだった。
これから本当の地獄が始まるのである。
第9話へ続く。

スキャン1回20,000円、頭部の印刷400,000円。いろいろ調べた結果、これが最安値の見積もりだった。

オバマ前大統領と同じスキャナでスキャンしてもらった。さすがに高品質。
第9話 スキャンしただけは何の役にも立たない
大きな勘違いをしていた。
20,000円かけて3Dスキャンで頭の計測ができれば仕事は半分終わったと思っていた。これだけで0.1ミリ精度の計測ができると。
400,000円もかけて実物大の頭の型を作るなんてあまりに非現実的で非効率。そこまで必要ないと心のどこかで思っていた。
ただ、この実物大の型こそがピッタリ合う面には一番求められているのであり、スキャン方法や印刷方法などは何でもいいのだ。
型がないと結局職人さんは寸法を聞いて頭の形を想像で作ることになる。そもそもここが狂う原因でこれをやめたかったのではないか!
また、剣道具はすべてが手作りなので仕上がりに多少の誤差はつきもの。この個体差とも呼べる誤差をゼロにする必要がある。
加えて、仕上がり時の検品がどうしたっていい加減になる。型を仕上がった面に実際にはめてみれば一発で分かるようなものだが、型がないと現状と何も変わらず「かぶってみるまで分からない」という状態だ。
大事なところは何も改善されない・・・。
やはり、400,000円かけて実物大の型を作るしかなさそうだ。
ただ、試しに1台といっても400,000万円だ。
この先、すべてのお客様にこの方法が対応できないのであれば
やるだけ無駄だろう・・・。
加えて、このスキャンしたデータというのがかなりの曲者だった。
・スキャンしたデータというのはそのままでは使えない。データの変換作業が必要。(今思い出せば5年前はここが分からなくて挫折したんだった)その変換作業に見積もりをだすと15,000円かかるらしい。
・400,000円というみつもりもあれば183,600円、923,529円という見積もりもあったが、いずれにしても数万円でできるような代物ではない(数万円でも高いが)。
・スキャナ類、ソフト類はすべて海外製。対応もすべて英語。
・3Dスキャナを使って車椅子を作っている会社へ助けを求めた。気持ちよく対応いただいたが、やはり肝心な部分は企業秘密(当然です)。
・東京の専門業者へ2社協力をお願いしたがやはりコストが合わず、当然知りたいところは企業秘密。
・1台作るのに400,000円払うくらいなら、と自分で3Dプリンタを8台購入。これが印刷したらゴミの山。
・自腹で購入した3Dプリンタだと、仕上がりが柔らかすぎたり、時間がかかりすぎたり、途中で詰まったり、台座から外れてしまったり、2回に1回、半分くらいは上手く印刷できない(これには心が折れる)。
・工業用のNC工作機械でサンプル製作を依頼してみるものの材料が柔らかすぎて使い物にならず。ウレタン?プラスティック?何がいいんだ?
寝る間を惜しんで試行錯誤が続く・・・。
全てはお客様の面を完璧に合わせるため。
通販でも完璧に・・・・。
第10話に続く。

3Dスキャンが出来ただけでは意味なし。実物大の型が無いと何の役にも立たないことが分かった。

最安値のヤマダ電機(東京法人営業部)でさえ、183,600円の見積もり・・・。こりゃもう無理でしょ。

DMM.makeでクリアアクリルの見積もりはなんと923,529円・・・(絶句)。
第10話 4年と6ヶ月。金額にして126万円。
そしてついに完成する。
私の頭部の実物大の型が。
この1台を作るのに4年と6ヶ月、126万円かかっと思えば感慨だ。
・4年前に買った3Dスキャナと3Dプリンタ各1台。
・同じく4年前に買った処理用のノートパソコン2台
・東京への航空券費用
・テストスキャン費用
・NC工作機械でのテスト出力
・大阪へのCADの学校代、交通費
・新しく購入した3Dスキャナ2台
・新しく購入した3Dプリンタ8台
・教えていただいた業者さんへの謝礼
加えて自分で言うのもなんだが貴重な時間・・・・
大事なところはどうしても企業秘密になってしまうが、結果、
・3Dスキャン計測(店舗にて)
・3Dスキャン計測(お客様への機器の貸出)
・頭部の実物大の型を何度でも印刷(驚くほどの低コストで)
・1台印刷するに1日で(1/3に時間短縮)
できるようになった。
第11話に続く。

上の2台はNC工作機械で出したもの。下が当店で製作した低コストで量産可能になった出力(ここまで出来れば面組みの型としては充分だよね。)
第11話 ピッタリだ、ピッタリすぎる・・・。
仕上がった型を自分の面に入れてみる。
すでに馴染んでいるとはいえ、自分では最高に
サイズも物見もあっている面だ。
すると・・・
驚くほどピッタリではないか!
天頂部の隙間はピタッとなく、
天もおでこに当たっている。
初めて自分の面の物見が合っていることを
外から確認することができた。
(これだけでも武道具屋としてはとても価値ある情報)
後頭部のはみ出しだって分かる!分かるぞ!!
ひとつだけ、誤算があった。
頬の部分に隙間が空いていたのだ。
これは自分でも気が付かなかったのだが、
ダイエットをして17kg体重が落ち、
顔が痩せて細くなってしまい内輪の頬の部分が
空いてしまっていたのだ。
ただ、太っていた時に頬が当たっていた跡が内輪にあるので
これは痩せたことが原因だと考えて間違いないだろう。
第12話に続く。
第12話 日本中から、世界中から、
ピッタリすぎる面をあなたのために。
3Dスキャナによるメリットはサイズだけには留まらなかった。
実は、誰が計測しても同じ結果がでるのである。
この話が大きい。
店長の私が計測しても、お客さんの奥さんが測っても、小学生の息子が計測しても、0.1ミリの精度で結果が同じ結果がでる。
これは革命だ。
(実際に貸出用の3Dスキャナも既に用意が出来ている)
また、データをメールで送ってもらうこともできるので、
香川県の人だろうが、日本の人だろうが、海外の人だろうが、関係ない。近い将来スマホなどでも3Dスキャンができるようになるだろうからそうすれば海外の人にも最高の面をお届けすることができる。
場所の問題も解決された。
嬉しいことはさらに続く。
一旦、型を作ってさえすれば、今既に持っている古い面、他店さんで購入した面なども、調子が悪ければ、その型を使ってピッタリ組み直すことができるではないか(有料にはなるがこれは喜んでもらえるのではないだろうか)!
2台でも、3台でも、今ある面がすべてピッタリサイズが合うことを想像して欲しい。
そう、あなたの剣道具のサイズの問題は金輪際、すべて解決されるのだ。
誰に聞いても夢のような話といってくれる、努力が報われる。
「宇賀店長、すごいのやりましたね!これはこの業界の革命ですよ。だから真似されないように保護しておいた方がいいですよ、ただでさえ、店長すぐに真似されちゃうんだから・・・。」
親切なKさんの勧めで3Dスキャンのよる剣道具の製作を何かしらの形で登録することになった・・・。
第13話に続く。
第13話 商標登録。
どんな業界でも真似されることはあると思うが
特にこの剣道具業界では真似される多いと思う。
HPの写真を使われることはザラだし、
(過去には私の写真が、他店さんのHPに使われていた事も)
私が始めた見本防具の貸出システムもすぐに真似されたし、
(中には武道具メーカーさんがお客さんを語って見本防具を申し込みしてバレて揉めたり・・・・)
当店で紹介したアメフト用の水分補給ボトルをメルマガで紹介したらそのあとすぐに大手さんが販売を開始したり・・・
でもそれは仕方が無いこと。
「真似するよりも真似される人間になれ」
とは子供の頃から教えられて来たことだ。
真似される分には構わない。そもそもすぐに真似できることだし、怒るほどの事でもない。
(誰だって真似できるような事をするほうが悪い)
だが、この3Dスキャンだけは守らないといけない使命感を感じている。開発にやはりとんでもない苦労があったからだ。
親切なKさんの勧めで商標登録で保護するにはまず名称とロゴが必要との事。
自分でもいろいろ考えたが、公募することにした。
開始2017年4月5日。
応募総数755通。どれも力作揃いだ。
「面ピタ3D」
「ジャストスキャン」
「マジックフィット」
「3Dミリフィット」
「おちゃのこ採寸3D」
「面ピッタリーナ3D」
「ご面胴かけません」
「剣道具脱皮仕立て」
「採寸範士3D」
「採寸革命3D」
「あなたのカタチ」
「だれでも面フィット」
「ご面胴かけません。」
その中から栄えある第1位に選ばれたのが・・・
「フィットスキャン3D
~ぴったりすぎてご面~」
だ。
ロゴマークは私が作った。
真似する、しない以前に武道具店さんで3Dスキャナとプリンタを駆使して型を作れるとは思えないし、どうやったってコストが合わないと思う。(ちゃんと連絡をいただければ、むしろ困っているお店さんには型を作ってあげたいくらいの気持ちだが・・・)
いずれにしてもこれで万全だ。
第14話に続く。

完成したロゴ

特許庁に出願した書類
第14話 サイズ、物見を「100%保証する」とはどういうことか。
はっきり言う。
面のサイズ、物見の高さについては
この業界でもっとも「あいまい」とされている部分だ。
どのお店もこの話にはできるだけ触れたくない。
「そのうち合いますよ」
「そんなもんですよ」
といった対応がほとんどだし、
調整に応じてくれたとしてもその場しのぎな対応ばかりで
また緩んでしまい、その先10年、20年と
きっちりサイズ合うことは珍しい。
ミシン刺防具の場合は「交換」という手法が取れるが
オーダーメイドの手刺し防具の場合は「交換」対応が出来ない。
だからこそ、例え100万円の剣道具でも
サイズの間違いは「致命的」となる。
私の考える原因はこうだ。
「面は仕上がって実際にかぶってみるまで合ってるかどうか分からないから」
何ヶ月も楽しみに待ってやっとの思いで仕上がった面のサイズが合わないほどがっかりすることはない。
せっかくお店の人に測ってもらったのに・・・。
やり直し、調整のためにまた何日も待つことになってしまう。。。
そこで3D型の登場なのだ。
実際に仕上がった面に実物大の頭部の型を入れてみれば、サイズと物見があっているかどうか一発で分かる。
お客様にお届けする前、お渡し前に判断出来るのだ。
これは誰も言わないが革命だ。
お客様は届いた面をただかぶるだけ。それで合う。
余計な手間は全く必要ない。
それでいてピッタリ合っている。
この方法なら確実に保証が出来る。
さらに職人側と打ち合わせをし、
「検品書」
を付けることにした。
職人側と当店側でお互いに責任を持って検品したことを
書面で確認する。
Wチェックだ。
これにより高価な手刺し防具でもサイズと物見の心配なく
製作することが出来るようになった。
私も100%絶対の自信を持ってお客様にお届けできるようになったのはいうまでもない。
第15話へつづく。

当店が3D面組みをした面に付けている検品書。それぞれの項目に面職人と当店で確認がされている。
第15話 つ、遂に特許庁から登録証が届いた。商標登録完了。

出願から6ヶ月、
ようやく登録証が手元に届いた。
何やら公に認められたことで
一層の自信が着いた。
登録証が届くまでの間、
3D面組みを行っているが最高だ。
個人的には間違いなく日本一の物見合わせだと思っている。
第16話へつづく。
第16話 「宇賀くん、いくらかかっても物見を合わせたい面があるんだ。お金の問題じゃないんだよ。」
あるご夫婦が来店された。
以前に他店さんで買った面をお持ちになり、
奥様の面がどうしても合わないと相談された。
ご主人さん「来月、妻の昇段審査のためにどうしても
この面をピッタリに合わせてやりたいんだ。」
私「お気持ち分かります。女性の面は特に難しいですよね。」
ご主人さん「購入したお店で何度調整しても上手く行かず、何年も悩んでいるんだ。何とかならないでしょうか?」
私「実は今3Dの面組みというのがあるのですが、この方法ならどんな面でも完璧に合わせることが可能です。ただ、型を作ったり、面を組み直したりと費用が何万円もかかるので如何なものかと。。。」
ご主人さん「違う、違うんだよ、宇賀くん。お金はいくらかかってもいいんだよ。これまで妻は一度もピッタリ合う面をかぶった事がないんだ。それを何とかしてやりたい。ピッタリ合った面というのはどういうものかこの面を調整して妻に教えてあげたいんだよ。」
私「・・・分かりました。これまで単独の3D面の組み直しサービスというのはやったことがありませんが、やることは同じです。是非、全力でやらせてください!」
そのまま3Dスキャンをしご夫婦は面を預けて帰られた。
数週間後、3D型とともに仕上がった面をかぶってみたら・・・。
奥様「お世話になります。早速稽古で使ってみると、少しきつめで物見もピッタリでした(原文のまま)」
少しキツめは当初の狙い通り。面は使用経過で馴染んでゆるくなるので頭の型を100%ではなく、将来の馴染みを考慮して98%で出力していたからだ。
~いくら費用がかかっても、どうしても合わせたい面がある~
奥様の為、なんと素敵なご夫婦だったことか。
第17話へつづく。
第17話 そして未来へ。。。。
H29現在、「3Dスキャナを使って剣道具の面を作る」といっても
「別にそこまでしなくても・・・」
といった反応がほとんどだろう。
だが、私には使命がある。
それはあなたの立ち姿を死ぬほど格好良くするということ。
そのために、どんな事をしてでも面サイズと物見は
必ず合わせる意地がある。
未知のものであろうが、
やったことが無い事であろうが、
職人さんに少々無理を言おうが、
自分がどんな努力をしようが、
新しい設備投資が必要だろうが、
周りからどんな批判を受けようが、
あなたの面サイズと物見は必ず合わせることを約束する。
そんなところへアメリカからとんでもないニュースが飛び込んできた。
先日発売されたばかりの「iphoneX」が3Dスキャナになるアプリが開発中ということなのだ。「iphoneX」に3Dスキャナのセンサーが搭載されていることは顔認識ロックの点から予想していたが、肝心なのは3Dスキャナになるアプリを開発しているArtecという会社だ。
この会社が現在3Dスキャナの第一線で活躍している会社でもちろん私もこちらの3Dスキャナでスキャンしてもらったことがある。(オバマ大統領をスキャンしたスキャナだ)。
もしこの技術が現実となれば、今手元にある何百万台というiphoneが3Dスキャナとなり、剣道具の頭の3Dデータを日本中、世界中から1ミリの誤差なく送ってもらえることになる。
スマホの進化は早いからあと2年もたてば、ほぼ全ての携帯に同様の機能が搭載されることだろう。
もう未来はそこまで来ているのだ!!


最新のiphoneXには3Dスキャンできるセンサーが既に搭載されている
商標登録証がようやく届いた。長かった。
iphoneXを3Dスキャナーにするアプリが既に開発中。2年以内にほぼすべてのiphoneに3Dスキャナー機能が搭載されるだろう。